「キメ」という言葉は美容好きなら日常的に耳にするけれど、その正体が肌のどこにあるのかを正確に知っている人は、意外と少ないかもしれません。
肌表面だけの話と思われがちなキメが、実は皮膚の深部にある「基底膜」の構造と深くつながっている——そんな研究成果が、皮膚科学の世界から届きました。
加齢とともにキメが失われていくメカニズムを科学的に紐解こうとするこの試みは、これからのスキンケアの考え方を変えていくかもしれない視点として、注目しておきたいところです。

◆◇「キメ」は肌の表面だけの話ではなかった
肌のキメが年齢とともに失われていくことは多くの方が実感していても、その理由が皮膚の内側にある「基底膜」の形状変化と関係しているとなると、少し驚く方も多いのではないでしょうか。
富士フイルムヘルスケアラボラトリーの研究では、これまで皮膚の内部構造を非侵襲で観察できる撮像技術「LC-OCT」と独自のAI画像解析を組み合わせ、皮膚内部の構造と肌表面のキメ形状に共通した特徴があることをすでに明らかにしてきた背景があります。
今回あらたに取り組んだのは、加齢とともに平坦化することが知られている基底膜の凹凸構造が、肌表面のキメ形成にどう関与するかという、これまで解明されていなかった部分への踏み込みです。
同社はこれまで培ってきた写真技術分野の材料・成形技術を活用し、実際のヒト皮膚の基底膜の三次元画像データをもとに、その凹凸形状を3Dプリント技術で金型として再現。
多孔性基材に凹凸構造を転写した培養用インサートを作製し、その上でヒト表皮細胞を培養することで、層構造を持つ三次元皮膚モデルを構築しました。
スキンケア成分の研究に使われてきた従来の皮膚モデルは表面が平坦で、キメ様の構造が形成されないものでした。
その限界を超えていく試みとして、化粧品研究者のあいだでも注目される発表になりそうです。
◆◇基底膜の凹凸が「バリア機能」とキメの両方に関わる可能性
今回開発した皮膚モデルは、従来の平坦なインサートを使ったモデルと比較して複数の検証が行われています。
まず経皮電気抵抗値(TEER)の測定では、凹凸構造を再現した新モデルのほうがバリア機能が比較的高い状態にあることが示されました[1]。
組織観察でも、角層・表皮ともに厚みが増していることが確認されており、この厚みがバリア機能の強化に寄与していると考えられています。
さらに免疫化学染色による解析では、凸部において分化マーカーである「ケラチン10」の発現低下と、表皮幹細胞制御マーカーである「17型コラーゲン」の発現増加が観察されました。
これは、表皮幹細胞の局在や分化バランスが空間的に制御されているようすを示すものであり、よりヒト皮膚の実態に近いモデルである可能性を裏付ける結果とされています。
そしてLC-OCT解析では、基底膜の凹部に対応する皮膚表面に「皮溝様構造」が、凸部に対応する部分に「皮丘様構造」が観察されました。
従来モデルでは形成されなかったキメ様構造が再現されたという事実は、基底膜の凹凸とキメの位置に対応関係があること——つまり、基底膜の構造変化がキメ形成に関与するという仮説を、科学的に裏付けていく一歩になります。
加齢とともに基底膜が平坦化することがキメの喪失とつながっているとすれば、アンチエイジングの視点から見たスキンケア研究の方向性にも、ひとつの示唆を与えてくれる成果といえるでしょう。

◆◇「なぜ年齢とともにキメが失われるのか」を知りたい方へ
毎朝鏡を見るたびに、若いころと比べて肌のツヤやキメが変わったと感じる方にとって、この研究が示す「基底膜の凹凸とキメの関係」という視点は、肌変化の仕組みをあらたな角度から理解するきっかけになるかもしれません。
今回の成果は2026年6月25日から有楽町朝日ホールで開催される「第51回日本香粧品学会学術大会」で発表される予定であり、今後は化粧品成分や処方が皮膚内部構造に与える影響の解明や、新たな皮膚評価技術への応用も期待されています。


まとめ
「キメは皮膚の内側からつくられる」という視点は、スキンケアを選ぶときの意識を少し変えてくれる発見かもしれません。
研究の詳細や今後の展開が気になる方は、富士フイルムヘルスケアラボラトリーの公式サイトで最新情報をご確認ください。
公式リンク
・公式サイト:富士フイルムヘルスケアラボラトリー
注釈
[1] バリア機能とは、肌内部の水分蒸散を抑制する機能や、外的因子(アレルギー物質・大気汚染物質など)の侵入を防ぐ機能のことを指します。